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「サンキューベリマッチ!」

―Wrote By堀越千秋(画家)―

 今年も又、板橋文夫オーケストラの背景でライブ・ペインティングをさせて頂くことになった。
 甘露至極である。
 何しろ、すぐうしろでかの面々が、狂気にのって演奏しておられる。そこへするすると出て行って、僕の勝手な絵を描いていいのだ。横十メートルたて六メートル。
 さあお好きな絵を描いて下さい。但し時間制限が一応あって、演奏より長びいてはいけません。
 布は僕が準備する。近所の山の女の子に頼んで縫ってもらった。でかいから大変だ。僕がぶらぶらしている間に、2人がかりでやってくれた。
 それを幕間に裏方の皆さんと僕らの仲間でアッという間に舞台後方に張る。
 いよいよ始まると、白い美しい大布の前に、御存知板橋オーケストラの面々が集いはじめ、グワッと大音響で始まる。 よだれが垂れるようなよろこびの始まりである。お客さんもそうだろう。
 しばらくそれを聞いて楽しむ。楽しくなって来たところで、僕も舞台へ出て行く。長い棒の先にハケをくくりつけたのと、 絵具をたっぷり入れたバケツを持って。せっかくの演奏の最中、へんな男がそうやって登場するのを見て、お客さんは何を思うんだろう?
 しかし、知ったことではない。僕も同じく演奏するのである。音符もよめず楽器も使えぬ僕が、しかし心だけは面々の音楽にのって、僕の演奏、すなわち絵を描くのだ。
 背後に鳴っている狂気の沙汰が、どんなにか僕にインスピレーションをくれることか!信じられないほどだ。申し訳ない。僕は何も考えず、 何の準備もなく、白紙で山から下りてくる。真っ白だ。僕が描くのは、あるがまま、聞いたまま、感じたままだ。
 ヘンな絵が出来ても、僕のせいじゃない。オーケストラのせいだ。ヘンな絵?!そんなものがこの世にあるのか?
 僕は、この大画面に実にたのしく絵を描く。サンキューベリマッチだ!
 ここで仕上る絵は、いつもすばらしい。自画自賛ではない。これがすばらしい責任は、いつも背後の、板橋オーケストラにあるからなのだ。サンキューベリマッチ!

 さて、去る7月9日に、平岡正明さんが急逝された。毎年ヨコハマで会えるのを楽しみにしていたのに。テンポの良い彼の語り口に笑っている間に、 お互いが根津の生まれで、同じ駄菓子屋の常連であったと判明したのだった。もちろん彼の方が十才ほど僕より年上である。 ・・・残念だ。 合掌。

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